スタートアップ企業の皆様、大きな出費を伴う国際(PCT)特許出願、どうされていますか ― 私は弁理士に依頼せず、AIと出しました

書籍『スタートアップ企業の自力特許出願戦術[PCT出願編]』― AIと進めるオンライン国際出願、手数料軽減と助成金まで

みなさまは、特許を書いたことがありますでしょうか。

私は大学を出て企業に研究開発者として就職し、そこで初めて特許の出願作業を経験しました。はじめは、自分たちが研究開発した内容と、発明と、それを特許にするという世界の関係が、よく分かりませんでした。とくに書面にするときのお作法と考え方が、知財部門の専門性を伴っていて、かなりとっつきにくかったのを覚えています。

あとになって、その理由が分かりました。特許は文言主義です。権利をできるだけ広く主張するために、法律の文書と同じように、書き方そのものにテクニックがある。そしてそのテクニックが、研究開発や商品化の過程とどう結びつくのかは、数年かけないと腹に落ちない類のものでした。

私の場合はたまたま、自分の発明を明細書のドラフトまで自分で書き起こす、という初期教育を受けました。ただ、これは一般的ではないと思います。組織の規模や、発明者が出願まで担うべきかというポリシーの違いはありますが、ほとんどの特許化の作業は、社内の知財部員か、社外の特許事務所が代行してくれます。発明者は、そのアイデアをできるだけ詳しく担当者に伝える。その先のドラフト、出願、維持管理はお任せする。それが普通です。

この分業は、よくできています。発明者は発明に集中でき、権利化は専門家がやる。私も費用感をほとんど意識しないまま、国内出願から国際出願まで、日常的に出していました。

問題は、その分業ごと消える場所があるということです。

スタートアップには、知財部門がない

自分で会社を始めて、同じことをやろうとしたときに愕然としました。費用と、作業量です。

大企業にいたときに見えていなかったものが、全部こちらに寄ってきます。誰も代わりに書いてくれませんし、誰も期限を管理してくれません。そして請求書は、自分の口座から出ていきます。

とくに国際出願です。PCT出願というかたちで各国への道を開いておく手続がありますが、特許庁に納める実費だけで365,100円(2026年9月現在・用紙30枚以内)。ここに弁理士への手数料が乗ります。創業まもない会社が、まだ売れるかどうかも分からない技術のために出せる額ではありません。

ここで多くの人が降りるのだと思います。私も、ずいぶん迷いました。

アイデアはある。発明もできている。それでも権利にできない。分業の片方だけが手元にあって、もう片方が無いという状態です。

AIが埋めたのは、創造性ではなくお作法のほうでした

そこで考えたのが、あいだのお作法を、AIにつないでもらうという進め方でした。

誤解のないように申し上げますが、AIに創造的な発明を任せる、という話ではありません。発明するのは、これからも人です。私がAIに任せたのは、発明を権利にするまでの手続——制度を調べ、書式を整え、エラーメッセージの意味を突き止め、画面を見て次の一手を決める、あの部分です。かつて数年かけて身につけるしかなかった「お作法」の側と言ってもいいと思います。

結果として、弁理士に依頼せず、自分でPCT国際出願を完了しました。2026年9月2日、国際出願番号を受け取っています。

  • 特許庁に納めた額 127,690円(用紙36枚・手数料の軽減制度を適用)
  • 代理人手数料 0円
  • 受領書は不備0件、エラー0件
  • 画面に向かっていたのは数時間(ただし、その前に一か月以上の準備があります)

金額が下がった理由は二つあって、大きいほうは自力で出したからではありません。中小企業・スタートアップ向けの手数料軽減制度を申請したからです。これは弁理士に依頼していても同じように効きます。自分で出したことで浮いたのは、代理人に払うはずだった分のほうです。この二つは、分けて考える必要があります。

「安く出せたこと」と「良い権利が取れること」は別です

ここは、はっきり書いておきたいところです。

私が下げたのは手続の費用だけで、中身は何ひとつ買えていません。願書の入力も、料金表の書き換えも、納付番号の取得も、手続です。手続は、覚えれば誰にでもできます。

難しいのは、その手前でした。発明のどこを請求の範囲として切り出すか。先行技術とどれだけ距離を取れば通るのか。拒絶理由が来たときに、どこを譲ってどこを守るか。冒頭に書いた「数年かけないと腹に落ちない」お作法の、本丸のほうです。ここは経験の量でしか埋まりません。

ですから、手続を自分でやって浮いた分を、中身の相談に回す。それが本来の配分ではないかと思っています。全部を自分でやるべきだ、という話ではまったくありません。行けるところまで自分で行って、その先を頼む。その真ん中の道があることを、お伝えしたいのです。

選択肢が増えれば、日本から出る特許は増える

ここからは、この本を書いた理由です。

日本からのPCT国際出願は、2025年に47,922件。三年連続で減っています。中国は73,718件で前年より5.3%増え、日本は米国にも抜かれて、いまは三番手です。

国は、技術による衰退を憂いています。スタートアップを増やし、技術の産出を後押しする。それはよいのですが、出願の費用が高すぎれば、生まれた技術を守る手段が無いのと同じです。制度はあるのに、入口の料金で人が入ってこない。

私はこれを、士業の方を圧迫する話だとは思っていません。むしろ逆だと思っています。個人がAIで出願できるようになれば、弁理士の方もAIを使って人件費を抑えられるはずです。そうやって出願サポートの費用が全体として下がれば、自分で出すか、手の届く費用で弁理士に頼むか、選択肢が増えます。

そして結果として、日本から出る国際特許が増え、日本のビジネスが育つ。そうなれば、願ったりかなったりです。

技術が生まれていないのではないと思うのです。生まれた技術を権利にするまでの入口が、費用と手続の壁で塞がっている。その壁は、自分で低くできます。

本にしました

この一件の記録を、一冊にまとめました。準備から出願、手数料の軽減、助成金の申請まで、実際の画面を並べて書いています。私がつまずいた箇所は「鬼門集」として四十六か所、巻末に逆引きでまとめました。同じところで手が止まった方が、そこだけ開けるようにしてあります。

K I N D L E  新 刊

スタートアップ企業の自力特許出願戦術[PCT出願編]

AIと進めるオンライン国際出願 ― 手数料軽減と助成金まで
荒井 和彦/合同会社創夢パートナーズ ¥1,650(Kindle Unlimited 対象)

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